新設:2011-03-03
更新:2017-11-01
月夜荒城の曲を聞く
水野豊洲
(歌)(一)春高楼の花の宴
めぐる盃かげさして
千代の松が枝わけいでし
むかしの光今いずこ
(二)秋陣営の霜の色
鳴きゆく雁の数見せて
植うるつるぎに照りそいし
むかしの光今いずこ
(土井晩翠)
栄枯盛衰は一場の夢
想思恩讐悉く塵煙となる
星移り物換るは刹那の事
歳月惣惣逝いて還らず
(三)今荒城の夜半の月
替らぬ光たがためぞ
垣に残るはたゞかづら
松に歌うはただあらし
(四)天上影は替らねど
栄枯は移る世の姿
うつさんとてか今もなを
嗚呼荒城の夜半の月
史編読み続く興亡の跡
弔涙幾回か几前に灑ぐ
今夜荒城月夜の曲
哀愁切切として当年を憶う
【通釈】
人の世の栄枯盛衰などというものは、宇宙の無限にくらべれば、ごく其の場かぎりの僅かな夢の間のことにしか過ぎない。時がすぎれば、喜びや怨みの感情などは塵や霞のように消えてしまうものである。時が移り事物が変化していくのも一瞬のことであり、歳月はどんどん過ぎ去って、二度と帰っては来ないのである。
こうした中で、今自分は、何度かくりかえされた栄枯盛衰の歴史のあとをふりかえって見ると、そのはかなさに、涙が止めどもなく流れるのである。今夜、歴史のいとなみを照らし続けてきた月光の下で、あの名曲「荒城の月」を聞いていると、当時の事が偲ばれて、哀愁切々として胸に迫ってくるのである。
【出所】
愛吟集54頁 新愛吟集36頁