新設:2016-03-31
更新:2017-11-01
『おくのほそ道』より「金沢」
松尾芭蕉
卯の花山・くりからが谷をこえて、
金沢は七月中の五日也。
爰に 大坂よりかよふ 商人何処と云者有。 それが旅宿をともにす。
一笑と云ものは、
此道にすける名の ほのぼの聞えて、
世にも知人も 侍りしに、去年の冬 早世したりとて、其兄 追善を 催すに、
塚も動け
わが泣く声は 秋の風
わが泣く声は 秋の風
【通釈】
卯の花山や倶利伽羅峠を越えて金沢に着いたのは七月十五日のことであった。ちょうどこの地に大坂から商用で通ってきている何処という俳人も居合わせて一緒の宿に泊まった。
金沢の一笑という人物は俳諧に熱心だという評判が、いつとはなしに広がり世間で知られた俳人だった。ところが、去年の冬に若死にしてしまったということで、私の来訪を機会に彼の兄が追善供養の句会を開いたので、次の追悼句を墓前に捧げた。
墓よ、私の慟哭の思いにこたえて動いてくれ。
この寂しい秋風は私の泣く声だ。
【出所】
おくのほそ道 平成26年第60回記念夏季吟道大学講座教本58~61頁
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吟者:上村岳章
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