新設:2010-11-20
更新:2017-11-01
春 望
杜 甫
国破れて 山河在り
城 春にして草木深し
時に感じては 花にも涙を濺ぎ
別れを 恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火 三月 に連なり
家書万金 に抵る
白頭を掻けば 更に短
渾べて 簪に勝えざらんと欲す
【通釈】
国都長安は賊軍に攻められ、見るかげもなく破壊されてしまった。ただ周囲の山河だけは依然としてもとの形をとどめている。街はすっかり荒れはて、人影もなく、再び巡ってきた春に、ただ草木だけがいたずらに生い茂っているばかりである。この戦乱の時世に、本来楽しいはずの花を見てもかえって涙が流れ、一家の別離を恨んでは、慰むべき鳥の声を聞いても妻子への思いに心がゆれる。烽火は何ヶ月もつづいて戦乱の止む気配もなく、家族との音信も途絶えがちで、一通の手紙も万金にあたる貴重なものに思われる。積る憂いのためか白髪頭は掻けば掻くほど更に短くなって、とても簪をさすことなどできないと思われる程である。
【出所】
普及版吟詠教本 漢詩篇(一)154頁