近代詩「昨日にまさる恋しさの」萩原朔太郎

昨日(きのう)にまさる戀(こい)しさの

萩原(はぎわら)朔(さく)太(た)郎(ろう)

昨日(きのう)にまさる戀(こい)しさの
湧(わ)きくる如(ごと)く嵩(たか)まるを
忍びてこらへ(エ)何時(いつ)までか
惱(なや)みに生くるものならむ(ン)
もとより君(きみ)はかぐは(ワ)しく
阿艶(あで)に匂へる花なれば
わが世に一つ殘(のこ)されし
生死の果(はて)の情熱の
戀(こい)さへそれと知らざらむ(ン)
空(むな)しく君を望み見て
百(もも)たび胸(むね)を焦(こが)すより
死(し)なば死かねし感情の
かくも苦(くる)しき日の暮れを
鐵(てつ)路(ろ)の道に迷ひ(イ)來て
破れむ(ン)までに嘆くかな
破れむ(ン)までに嘆くかな